大阪高等裁判所 昭和59年(ラ)205号 決定
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【判旨】
2 本件賃貸借期間の更新の主張について
一件記録によると、抗告人は本件抵当権の設定登記手続がなされた昭和五五年七月九日以降の昭和五六年一〇月一日に、前記のとおり賃貸借期間を二か年として本件建物を賃借したこと、本件建物については昭和五七年九月一四日に競売開始決定がなされ、その差押登記が同年同月一七日付をもつてなされたことが認められる。したがつてその後に賃貸借期間が満了した本件賃貸借については、抗告人は、期間の更新をもって、本件買受人(相手方)に対抗することはできない(最高裁判所昭和三八年八月二七日最高裁判所民事判例集一七巻六号八七一頁参照)。
そうするとこの点に関する抗告人の主張も認められない。
3 <省略>
4 しかし民事執行法八三条一項によれば、執行裁判所は債務者又は事件の記録上「差押えの効力発生前から権限により占有している者でないと認められる不動産の占有者」(ただし、差押えの効力発生後に占有した者でも、事件の記録上買受人に対抗することができる権原により占有していると認められるものを除く)に対してのみ不動産の引渡命令をなしうるものである。
ところで差押えの効力発生前に成立した短期賃借権に基づき当該不動産を占有している者は、たとえ右差押え後賃貸借期間が満了し、その更新をもつて買受人に対抗しえない場合であつても、もと所有者に対しその賃借権を主張しうる以上、「差押えの効力発生前から権限により占有している者でないと認められる不動産の占有者」には該当しないと解すべきである。蓋し、民事執行法の立法経過によると、その原案は、「執行裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる。ただし、事件の記録上買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては、この限りでない。」とし、もと所有者に対しその占有権原をもつて対抗しうる者であつても、これを買受人に対し対抗できない不動産占有者に対しては、なおその不動産引渡命令の対象者となしうるとし、その対象者となるべき者の範囲を広く定めたところ、もと所有者に対する関係で、差押えの効力発生前から正当な権原により不動産を占有する者を、その権原をもつて買受人に対抗することができないという理由で、簡易な債務名義である引渡命令によつて排除することは、その占有者の立場の配慮に欠けるものであつて、これらの者に対しては、通常の明渡し等の訴訟手続によりその権利の実現を図るべきであるとの趣旨において、現行民事執行法八三条一項の規定のとおりに修正されたことは顕著な事実である。このようにもと所有者に対し占有権原を有する占有者を、不動産引渡命令の対象者から除外すべきとする右立法経過、しかして同条一項本文において、「差押えの効力発生前から権原により占有している者でないと認められる占有者」に対し不動産引渡命令が発せられるべきものとし、他方同項ただし書において、「差押えの効力発生後に占有した者で買受人に対抗することができる権原により占有していると認められるもの」を不動産引渡命令の対象者から除外している同条項の規定に徴すると、同条項の「差押えの効力発生前から権原により占有している者」とは、もと所有者との関係で占有権原を有する者と解さざるを得ず、買受人との関係で占有権原を有する必要はないと解せられる。
そして一件記録に徴するも、本件のもと所有者(債務者破産者芝浦建設株式会社)において本件賃貸借契約の更新を拒絶したことも、またその更新を拒絶すべき正当な事由の存在することをも認め難いから、抗告人はもと所有者に対する関係においては、なお本件賃貸借は法定更新されたものとして、本件賃貸借をもつて対抗しうるものといわざるを得ない。
そうすると結局本件においては、抗告人に対しては、本件不動産引渡命令をなしえないといわなければならない。